低価格&高性能という言葉がピッタリくる、大人気のAPU AMD Ryzen。
自作ユーザーはもとより、最近はメーカー製PCがRyzenを採用する例も多く、すぐれた性能と価格のバランスで検討に加える人も多いことでしょう。(Intelしか使わないと思われていたMicrosoft Surfaceも搭載!)
さてこのRyzen、あまり知られていませんが、実はコア電圧を下げて運用する”低電力モード (cTDP)”が存在します。
もちろんAMDから提供される”純正”の手段です。サードパーティのカスタムBIOSで「下げれるところまで下げてみようぜ」みたいな、無茶な設定をするものではありません。(笑)
ということは、気になるのはその速さと消費電力。
どうやら通常65Wである消費電力を35W付近まで下げられるらしく、そうなるといま僕が使っているインテルの低電力版CPU Core i5-8400T(TDP 35W)と同レベル。
「Core i5」と「Ryzen 5」でグレードとしても同格、コア/スレッド数もCore i5-8400Tは6コア/6スレッド、Ryzen 5 3400Gは4コア/8スレッドと、かなり近いところにあります。
比較をまとめてみました。
AMD Ryzen 5 3400G | Intel Core i5-8400T | |
コア数 | 4 | 6 |
スレッド数 | 8 | 6 |
クロック(ブーストクロック) | 3.7GHz(4.2GHz) ※定格運用の場合 |
1.7GHz(3.3GHz) |
クロック アンロック | OK | NG |
一次キャッシュ | 384KB | Intel Smart Chache 9MB |
二次キャッシュ | 2MB | |
三次キャッシュ | 4MB | |
TDP | 定格 45-65W cTDP 最低 35W |
定格 35W |
内蔵GPU | Radeon RX Vega 11 | Intel UHD Graphics 630 |
現在インテルのCPUは供給が不安定で、特にサフィックス「T」を持つ低電力版は、かなり入荷が少ない、というかぜんぜん無い。最新のCore i5-9400Tなんて、オークションで性能とかけ離れた高値がついてしまうほどなのです。
もしRyzen 5 3400Gが同等クラスの低消費電力と速さを発揮できるのなら、在庫が豊富なので入手もラク!しかもお安く仕上げられます!
こ、これはぜひとも試したい!と比較魂(?)が燃え上がったので、さっそくパーツを買い集めましたよ!
Core i5-8400T vs Ryzen 5 3400G ガチ対決です!
パーツリスト
この2つのCPUを比べるにはとても良い環境がありまして、それがASRockから発売されているベアボーン「DeskMini」シリーズ。
全く同じ大きさ、同じ電源アダプタで、Intel用とAMD用があるのです!(Intel用 DeskMini 310/AMD用 DeskMini A300)
Intel用
もちろんマザーの構成パーツすら全く違うので一概にCPUだけの比較としてはややむずかしいところはありますが、本体の大きさも形もアダプタも同じ出力なので、かなり近い比較ができるはず。
そろえたパーツはこちら!
Ryzen 5 3400Gマシン
パーツ | パーツイメージ | スペック |
---|---|---|
ベアボーン | ASRock DeskMini A300 | |
CPU | AMD Ryzen 5 3400G | |
CPUファン | アイネックス Intel&AMD用 薄型CPUクーラー IS-40X | |
メモリ | Team DDR4 SO-DIMM 16GB (8GB x2) | |
メインSSD | Samsung 970 EVO (NVMe 500GB MZ-V7E500BW) |
DeskMini A300の組み立て記事はこちら > DeskMini A300 + Ryzen 5 3400Gで片手サイズの超高性能マシンを作る!【購入~組み立て編】
参考:Core i5-8400Tマシン
パーツ | 商品イメージ | スペック |
---|---|---|
ベアボーン | ASRock DeskMini 310 | |
CPU | Core i5-8400T | |
CPUファン | Noctua NH-L9i | |
メモリ | DDR4 SO-DIMM 16GB | |
メインSSD | WD Black (NVMe 250GB WDS250G2X0C) | |
データSSD | Samsung 860 Evo (2.5インチ SATA) |
DeskMini 310の組み立て記事はこちら > NUCからDeskMini 310 + Core i5-8400Tへ移行!静かで速くて省電力!組み立てとベンチマーク
Core i5-8400Tはひと世代前のCPUになりますが、最新のCore i5-9400Tと基本機能はほとんど違いません。(追記:2020/5/30現在、Intel 10シリーズが発売され、8400Tは2世代前となります)
設計はリファインされていますが、プロセスルールは14nmで同じ。わずかにクロック数が上がる程度です。Core i5-9400Tと想定するのなら、各ベンチマークに+10%ぐらいが目安となるでしょう。(実際は+10%も開きはないと思われます)
電圧調整
さてまずはRyzenの電圧調整方法です。
手順は次の通り。
- 起動と同時にDELキーを連打し、UEFI(BIOS)へ入る
- Advandedタブを選択
- 「AMD CBS」に合わせENTER
- 「NBIO Common Options」に合わせENTER
- 「System Configuration」に合わせENTER
- Auto、65W~35Wの選択肢が出てきますので、好みのものに選択。今回は35Wを選択。
- 設定を保存して終了
ベンチマーク 3DMark
ベンチマークでCore i5-8400Tと対決と行きましょう!
AMDは1社でCPUとGPUを作る、世界唯一の会社です。Ryzenの内蔵GPU Radeon RX VEGA 11には、当然のごとくGPU専用技術が投入されています。GPUの性能に注目です。
Intelはコア単体の計算力が高く、シングルスレッドが強い。その性格がどのように現れるのか、楽しみです。
まずゲーミングベンチマーク3DMark。
結果を見てみますと、RyzenのグラフィックコアRadeon RX Vega 11の猛烈な強さがわかります。
65WモードではCore i5-8400Tの1.5~3倍のスコアに達します。35Wの省電力モードなら拮抗するかと思えば、なんとこれまた1.3~2.9倍のスコアに!
その差は重いテストになればなるほど開いていきます。Radeonの底力がすごい。
特に注目してほしいのが重量級のFire Strike。
Core i5-8400Tが1092というスコアに対し、Ryzen 5はなんと3204と約3倍のスコアに到達。しかも、省電力モードでも全くスコアが減らない!
これは計測間違いかと思い3回試しましたが、ほぼ同じなんです。もしかしたら重い処理の場合はGPUには通常通り電力を回しているのかもしれません。でも総合電力はそれほど増えません。
バケモノかこいつ・・・!!
ベンチマーク PassMark
そして次はCPUの能力。
過去製品(Ryzen 2000シリーズまで)はAMDのシングルスレッド能力は低く、Intelの独壇場となりましたが、Zen 2コアで大きく性能を改善しました。
(修正:筆者の認識不足です。3400GはZen+コアです。)
PassMarkを動かしてみました。
Core i5-8400Tが9356に対し、Ryzen 5 3400Gの65Wは9818、35Wでも9278と健闘。
低電力モードでは追い抜くことこそできませんが、食らいついています。
65Wモードでは500ポイント程度上回りましたが、電力差があるので勝ちとは言えません。しかし、電力を与えさえすればさらなる能力が引き出せる、と捉えることもできます。
Core i5-8400Tはアンロックモデルではないので、クロック数やコア電圧を変更することはできません。変更したい場合はCore i5-8400(Tなし)を買い直す必要があります。
PassMarkの3DテストではまたRadeon RXが牙を剥きます。およそ2倍となるスコアで圧倒。ただ、なぜか2DテストはCore i5が微妙に勝つという不思議なことに。
メモリテストはCore i5-8400Tが完全に勝っていますが、これは今回使用した安いメモリモジュールのせいでしょう。設計上、メモリクロックにRyzenはかなり左右されます。
速いメモリを買えばさらに伸びるはず。ここは資金との相談です。
ベンチマーク CineBench
OpenGLと3Dレンダリング能力を測るCineBench。
ここでも傾向は同じですね。
GPU処理が関わるOpenGLではRyzen 5がかなり強く、CPUコアの処理能力が問われる部分はCore i5が強い。
特にCPUレンダリングは、Core i5-8400Tが定格65WのRyzenにまで勝ってしまうのがすごい。物理6コアのパワーか、シングルスレッドのパワーか、さすがの力です。
消費電力
さて一番問題となる消費電力。
24時間/365日運営のサーバを目指しているので、CPUの消費ワット数ではなく、システムとして何Wh使っているのか?を重視します。
冒頭に書いたとおりDeskMini 310 + Core i5-8400Tでは、月間およそ300円分の電力しか消費しません。
Ryzen 5 3400Gの低電力運営ではどうなのでしょうか?
1日平均 | 30日 | |
Ryzen 5 3400G 定格 65W | 512.34Wh (0.5KWh) | 15,360Wh(15KWh) ※予想値 |
Ryzen 5 3400G 35W | 411.12Wh(0.4KWh) | 12,333Wh(12KWh) ※予想値 |
Core i5-8400T | 446.13Wh(0.4KWh) | 13,300Wh(13KWh) |
Ryzen 5の35W運用は、Intelの省電力CPUと同程度の消費電力を示しています。これなら「Ryzenは低消費電力で運用できる」と言い切ってもいいのではないでしょうか。
定格 65Wではもちろん消費電力は多くなりましたが、設定としてのワット数では1.8倍なのに、実際の消費電力では1.2倍程度に収まっています。
7nmプロセスルールを採用したRyzenは、かなり低消費電力化が進んでいると言えます。もちろん電源管理も進化しているのでしょう。
定格でこの消費電力なら、24時間運用してもさほどフトコロは痛みません。(笑)
体感速度
体感速度ではどうでしょうか。
定格運用ではさすがにキビキビ動きます!
Windows 10のどこにもモタツキがなく、PhotoShopやIllustratorなどグラフィック速度も実用十分な速度で動きます。
クロックは頻繁に3.9Ghz付近にアップされ、処理能力重視で動いているのがわかります。
ただ、スペック上の最高クロックは4.2Ghzとなっていますが、4Ghz以上の数値はほとんど見られませんでした。廃熱や電源の限界かもしれません。
これを35Wに落とすと、普段はあまり違いを感じないものの、Adobe LightroomでRAW写真を連続で編集したり、書き出しを行ったりすると「少し遅くなったかな?」と感じます。
クロックは3.0Ghz以下の表示が多く、かなり重い処理が入ったときも3.8Ghzぐらいまでしか上がりません。電力差はしっかり出ています。
とはいえ、マウスの動きすら遅くなったり、画面がガクガクしたりなど、そういうレベルのもたつきは全くありません。
重い処理で少し遅いのが”体感できる”というほど些細な違いです。
低電力運用でも、Ryzenは必要十分なパワーを提供してくれます。
その気になればフル電圧、オーバークロックも
Ryzen 5 3400Gの低電力モードは、Intel 「T」サフィックスCPUと同格の低電力となることがわかりました!
Intelでは「K」シリーズでオーバークロックは可能ですが、消費電力を下げるという方向のオプションは基本的にサポートされていません。
通常電力版、低電力版を用途によって買い分けないといけません。
低電力版を買って「あれー?もう少しパワーが欲しかった!」というときは、もう一度通常電圧版を買い直さないといけないわけです。
これがRyzen 5 3400Gの場合、単に電力を65Wに設定するだけで、フルスペックに戻ります。
サーバーとしての運用中はローパワー、3Dを扱ったりゲームをしたりするときはフルパワーと、一つのCPUで切り替えできるのは今までにない使い方でしょう。
そのほかのメリット
今回はRyzenそのものの速さも良かった部分ですが、他にも細かなメリットがありました。
DeskMini A300がM.2 SSDを2基搭載できる
DeskMini A300がM.2 SSDを2基搭載できます。(DeskMini 310ではM.2は1基のみ)
これによりM.2 SSD x 2基、2.5インチ SSD(HDD) x 2基で、合計4台も搭載可能!RAIDを組み、NASとして運営も可能ですね。
高速メモリに対応
現在かなり高速なDDR4-2933メモリに対応しています。(DeskMini 310はDDR4-2666まで)
最大3台のディスプレイに同時出力
Intel版のDeskMini 310では、ポートが3つあるものの、同時出力は2台のみでした。
ですがRyzen 5 + DeskMini A300は、3台同時出力可能!3画面をこんな小さなマシンで出力できるのですから、大きなポイントです。
デジタルサイネージマシンとしても使えそうです。
映像がなめらかに動く AMD Fluid Motionに対応
AMD Fluid Motionは映像のフレームとフレームの中間部分をRadeonが補完し、非常になめらかに再生する技術。もともと1秒間に24枚程度しかない映像の中間部分を増やし、60枚にして再生します。
特にアニメでは顕著な効果があります。
DeskMini 310かA300か
以上の結果から、DeskMini A300 + Ryzen 5 3400Gは、Intelにはないメリットが多くあることがわかりました。
ではDeskMini A300一択か?といわれると、そうでもありません。
というのも、Ryzen 5 3400G以上のグレードは、すべて「内蔵GPUなし」のモデルになります。つまりグラフィックボードを搭載することができないDeskMini A300では選択不可能です。搭載はできますが画面が出ません。
もっとパワーが欲しくなったのでコア数が多いものを買おう、と考えても、現状4コア/8スレッドのRyzen 5 3400G以上のグレードを選ぶことはできないのです。
その点Intelシリーズなら、最大8コア/16スレッドのCore i9-9900(65W)まで搭載することができます。(価格や熱量を気にしなければ)
この小さなベアボーンでそこまで高性能を求めるのもどうかと思いますが、将来的に自分がもっと高性能が欲しくならないか、考えて選択する必要がありそうです。
WTS的まとめ
さて、けっこうマイナーな使い方で2つのCPUをガチ比較してきましたが、いかがでしたでしょうか。
Ryzenは3000シリーズでさらに性能が磨かれ、Intelの独壇場ともいえた自作PCシェアを一気に塗り替えています。
そのうえ低消費電力モードが使えるとわかったので、これからはさらに応用範囲が増やせますね!
コメント
>過去製品(Ryzen 2000シリーズまで)はAMDのシングルスレッド能力は低く、Intelの独壇場となりましたが、Zen 2コアで大きく性能を改善しました。
Ryzen5 3400Gは3000番台ではありますが、Zen2ではなくZen+アーキテクチャですね。AMDのAPUにおいては、2000番台=Zen、3000番台=Zen+、4000番台=Zen2と一つずれています。
確かにZen2コアでシングルスレッド性能は大きく改善されているのですが、この文面からだと、レビューされている3400GがZen2アーキテクチャのものだと誤解を招く可能性があると思い、コメントさせていただきました。
通りすがりさん
コメントありがとうございます!
まったくその通り、お恥ずかしい認識ミスでした。
記事も修正いたします。ご指摘ありがとうございました。
楽しく記事を読ませていただきました。コンセプトが明確でそれに対する解答も詳細に解説してありましたので、自分にとって非常に有意義な情報でした。ありがとうございます。
ただ2点だけ修正していただきたいことがあり、まず1点目が電圧(V)と電力(w)を間違って記述している箇所が散見されるところ、2点目が『Ryzen5 3400G以上のCPUを選ぶことができない』という箇所です。前者については電圧の話かと思ったらwの話をしたり、消費電力の話なのに電圧と記述されているところを逆に直し、後者は『Ryzen5 3400Gより上のグレードのCPUを選ぶことができない』と直した方が誤解なく自然な表現になると思います。
モロッコさん
コメントありがとうございます!
確かに電圧と消費電力がごちゃまぜになっていますね。
修正いたします。ご指摘ありがとうございます。