どうも、太田アベル(@LandscapeSketch)です。
まずは百聞は一見にしかず。このデバイスを見ていただきましょう。
いかがでしょうか。
「なんの装置だ?」と思った方もかなり多いでしょう。
これはパソコン用のキーボードなのです。たぶん、どんな店でも目にしたことがないようなカタチではないでしょうか。
このキーボードは”真の”エルゴノミクス製品を追求するエジクン技研 エルゴノミクスショップより販売されている、エルゴノミクスキーボード「キネシス Advantage 2」。
「異様」とも言えるおわん型のキーボードから始まり、大きく左右に分かれたキー、独特な配列。どこをとっても誰もが思い浮かべる「PCキーボード」とは、かけ離れています。
使いやすいキーボードを求め多数の機種を乗り継いできた僕ですが、さすがにここまで”最適化”された機器は見たことがありませんでした。
今回販売元のエジクン技研より試用機をお借りできたので、写真をたくさん使用し、謎に満ちたその使い勝手をレビューいたします!
一体いかなる使い心地なのか!?
リモートワークで増える腱鞘炎患者
キーボードの打ち過ぎで手首を痛める人は、いま非常に増えています。僕がよく行く保険適用の整骨院の先生が言うから、間違いありません。
たとえキーボードを見ずに打てる「タッチタイピング」ができる人であっても、リモートワークで小さめのノートPCのキーボードを何時間もたたき続けると、少なからず手や手首に違和感を覚えます。その疲労は肩こりや腰痛にも直結します。
つらい状態が続けばいずれ腱鞘炎となり、普段の生活に支障をきたすことになってしまいます。
腱鞘炎の痛みをこらえて仕事をしたりすればさらに悪化。指は骨折、手首は脱臼し、皮膚は緑色に染まりまるでゾンビの手のごとく・・・なることはありませんが、まあ痛くて仕事どころではなくなります。
とにかく、キーボードとは想像以上の負荷を指や手首に与えているのです。
僕はその状況を少しでも解消しようと、非常にキーを軽くしたRealForce(ALL 30g)という機種を愛用してきました。触れるだけのような軽い力でタイプできるので、他のキーボードよりは多少はマシ。
とはいえ、カタチは一般的なフラットな四角形であり、手首の位置や角度はそれほど大きく変化しません。
手の健康のために常識を再設計したキネシス Advantage 2
前置きが長くなりました。
ようやっと冒頭で紹介したキネシス Advantage 2 キーボード(以下キネシス)です。
今回は日本語配列モデル。ほかには米国配列モデルもあります。(※配列は日本語配列ですが”かな”の表記はありませんので、ご注意ください。)
キネシスは、キーボード疲労から本気で指や手首を守ろうと、すべてをイチから設計したキーボード。ちょっと丸みを持たせたからエルゴノミクスだよねとか、指がフィットするから人間工学だよね、みたいな軟弱な機材ではございません。
あらゆる角度から人間の手を研究し、すべての理論をブチ込むとこうなる、というある種の到達点なのです。
おかげで近寄りがたいほどの異様な姿ですが、そのフィット感は、店頭に普通に並ぶ「自称エルゴノミクスキーボード」を、一笑に付すほどのレベルに到達しています。
では、想像がつかないその使い勝手を、詳細に追っていきましょう。
まず気づくのは「掘り下げる」ごとく、おわん状になった左右のキーボードです。
手の力を抜いてみると分かりますが、指はゆるやかに内側に丸まります。キネシスのキーボードは、この自然な曲がり方にフィットするのです。
余談ですが、力を抜いているのにピンと伸びている指があると、腱鞘炎予備軍です。下の写真は再現ですが、僕は実際に人差し指がうまく曲がらなくなりました。
「バネ指」という、指を曲げるとカクカクするような感触になる症状もあります。手の柔軟体操をし、早めに病院へ相談してください。
ホームポジションの「ASDF JKL;」は青色になっていて、特殊な形ですが一目でホームポジションに戻れます。
親指の位置には、本来キーボードの最下段にあるキーたちが並びます。それに加え、左親指にはBackSpaceキー、右親指にはWindowsキーなどが混ざっているのも特長。
本体を真正面から撮影してみました。かなりダイナミックに湾曲が付けられているのが分かるでしょうか。
キーをコード側(上部)から手前に向かって撮影してみました。キーの配列角度がわかるでしょうか。
キネシスは使い勝手を徹底追求し、キーの位置もかなり変わっています。
キーの並び方、その角度
キーの並び方は非常に独特です。
隠さず言えば、慣れるまでけっこう時間がかかります。特に僕のように何十年もJISキーボードを打っていると、指運びにもクセが強くなってしまい、キネシスに合わせるのは正直大変でした。
ですが、慣れてくると極めて合理的で、よく考えられた並びだと気づきます。
たとえば親指のBackSpaceキー。
普通はBackSpaceは右上最上段にありますが、比較的よく使うキーにもかかわらず、小指と手首を大きく動かさないと届きません。文字削りだけでかなり手首を使っているのです。キネシスは左親指で打つので、手首はほぼ動きません。
次にカーソルキー。矢印キーですね。
なんと左右のキーボード最下段に分かれています。左には← / →、右には↑ / ↓があります。左側にはCとVの下に、右側はMと「,」の下にありますね。下図にて確認してください。
キネシスでは文字キーに混ざっていて、ちょうどLinuxのviを操作するような感じになり、慣れが必要です。慣れたらこれまた手首の動きが半減しました。
確かにカーソルキーは、JISキーボードでは少し離れた位置にありますね。
あとはCtrl、Alt、Enter、Spaceが親指部分にあるのも慣れるのが大変なところ。普段は小指で打つCtrlが親指の上側にあります。慣れるまで、Ctrl + Cすら打てない。(苦笑)
次に疑問になるのはファンクションキーでしょう。
ファンクションキーはキーボード上部に並びますが、少し手を持ち上げ、奥に伸ばす必要があります。
キーをたたくと言うよりは、上部のボタンを押しに行く、といった感じ。Escもここにあるので、Escを多用するエディタ(viなど)ではけっこう忙しくなってしまうかもしれません。
安心できるのは、このあたりは後述する高機能マクロを活用したり、「リマップ」という機能で、ある程度キーの再設定(位置変更)ができる点です。
強力なマクロ機能やリマップ機能
キネシスAdvantage2キーボードには4MBのメモリが備わっており、多くのマクロをキーボード自体が記憶します。
マクロは、ワンタッチで複数キー操作をしたり、タイミングを調節しながら何段もの操作を記憶させることが可能です。指を伸ばして使っていた機能を、手元でワンタッチ起動することができます。
マクロは、基本的にはキーボードから直に打ち込む方式になりますが、英語配列モデルでは専用アプリ(SmartSet App)を用いて変更することも可能です。
リマップツールは、キーボード全体のキーの入れ替えや、移動(位置変更)が可能です。
また、キネシスは「レイヤー」という考え方を持っており、左最下段の「Keypad」キーを押しながら操作すると、別レイヤー(キーパッドレイヤー)のキーが発動する仕組み。
Keypadを押しながら打つと、キーの下側面に書いてある数字が発動します。右側のキーがテンキーモードとなるのがもっともわかりやすいところ。
左最下段の「Keypad」キーは、米国よりキーの多い日本語配列だけの特別なキーになります。米国配列では右上のファンクションキー列にある「Keypad」キーを使います。(右から2番目)
こちらは1回押すごとにON/OFFが切り替わるトグル仕様。別レイヤーのキーを多用する場合は、こちらのキーも活用していきたい。
もちろんそれぞれのレイヤーにおいてキーの変更は自由です。
とはいえこの専用アプリも、表示が英語な上に設定が少々ややこしい。使いこなすにはキネシスに慣れたアドバイザーがほしいところ。
どうしても詰まってしまった場合は、エジクン技研にてアドバイスも受けられるようです。もちろん特殊な機器であるということをふまえ、まずは自分で調べ、どうしても分からないときだけ質問を送ってほしい。
大きさの目安
キネシスの大きさの目安です。
僕の指は手首から中指先まで17cm。成人男性として中間ぐらいの大きさで、最上段キーまで少しの余裕を持って届く感じです。手の小さな方は上部へのキーが届きにくいかも、と感じます。
いろいろな角度でキーに指を置いた写真を掲載します。ご自身の手のサイズ、指の曲げ具合などを想像してみてください。
キースイッチは2種類選択できる
キースイッチは世界的に有名なメカニカルキー「Cherry MX」を搭載。
軸の色で特性がかわりますが、キネシスはクリック感のない「ピンク軸」か、カチッとした感触のある「茶軸」が選べます。
完全に好みですが、もしなるべく指の力を減らしたいと考えているのなら、ピンク軸をオススメします。
慣れは必要だが、必ず得るものがある
さて、ひととおりキネシス Advantage2を見てきました。
文章の各所に「慣れが必要」と書くことになりましたが、これは事実です。なんといってもこの形です。いままでの指運びをいったん捨てさり、独特なキーボード配列を覚え直す必要があります。
とはいえ、むやみにキーを詰め込んだ海外PCのキーボードとはまったく違い、1つ1つの位置や大きさを注意深く吟味し配置した、苦労がひしひしと伝わってきます。とにかくよく考えてある。
最初は「なんでここなんだよ!」と思ったキーが、慣れてきたら「なるほど、こういう動きだからここなのか!」と感じてきます。慣れのレベルに従い、どんどん手首の動きが減ってくることに気づくでしょう。
そして完全に慣れたあかつきには、最小限の指の力で、あらゆる操作をホームポジションからほぼ動くことなくこなせるでしょう。まるで手と一体化したかのようなキーボードとなることは、想像にかたくありません。
料金はかかるが、実機の体験も可能
販売元のエジクン技研では、試用機の貸し出しも行っています。
もちろん特殊で高価な機器なので、貸出料金と本体代金のデポジット(返却後に戻ってくる)などが必要になりますが、使いこなせるのか不安なまま購入するよりは気軽です。
また、直接エジクン技研を訪問し、30分間体験するというサービスも行っています。
所在地は「埼玉県さいたま市大宮区土手町1-1-4」です。もし距離が近ければ、体験サービスも活用してください。体験は無料ですが、こちらのページから予約が必要です。当然のことながらエジクン技研の営業時間のみとなっています。
エジクン技研はキネシスキーボードだけではく、手首にやさしいマウス、キーボードやマウスの信号を足で入力するフットスイッチなど、体の不自由な方をサポートする装置も取りそろえています。
もしキーボードによる指や手首の問題に悩んでいたら、ぜひ一度試してみてほしいと思います。
WTS的まとめ
ここまで独自形状のキーボードというのは、非常にめずらしいです。ただし、単なるイロモノではありません。とにかくあらゆる形状が考え抜かれていて、もはや「特殊な医療器具」のような装置になっています。
たくさんの写真を用意しましたが、このフィット感は実際にさわらないと、100%は伝わらないと思います。興味が出たら少々の料金はかかりますが、ぜひお試し体験に申し込んでみてください。新たな世界に出会えるはずです。
最大の問題点は、キネシスに慣れてしまうと、逆に普通のキーボードが操作できなくなることでしょうか。(笑)
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